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股関節の人工関節手術(THA)と変形性股関節症の治療

2026年04月02日

股関節の付け根に痛みを感じ、靴下を履く動作や階段の昇り降りが困難になっていませんか。その痛みの多くは、股関節の軟骨がすり減る「変形性股関節症」が原因かもしれません。

進行すると歩行そのものが困難になりますが、現代には人工股関節全置換術(THA)という確立された治療法があります。本記事では、変形性股関節症の病態からTHA手術の仕組み、最新の術式、術後のリハビリまでを詳しく解説します。

変形性股関節症とは?進行する痛みと手術が必要な理由

変形性股関節症は、股関節のクッションである軟骨が加齢や発育性の要因によって摩耗し、骨同士が直接ぶつかり合うことで炎症や変形を引き起こす病気です。初期は立ち上がり時の違和感程度ですが、進行すると持続的な激痛へと変わり、日常生活に深刻な支障をきたします。

ここでは、病態のメカニズムと手術が必要になる基準を解説します。

軟骨の摩耗と骨の変形が生じるメカニズム

股関節は「臼蓋(きゅうがい)」という受け皿に、太ももの骨の先端である「大腿骨頭」がはまり込む構造をしています。健康な状態では滑らかな軟骨が衝撃を吸収していますが、変形性股関節症になるとこの軟骨が消失し、露出した骨同士がこすれ合います。その刺激で骨にトゲ(骨棘)ができたり、骨の中に空洞(骨嚢胞)ができたりすることで、関節の形そのものが崩れていきます。

この構造的な変化は自然治癒することがないため、骨の変形が一定以上進むと、物理的な痛みの原因を取り除くための根本的な処置が求められるようになります。

保存療法の限界と人工股関節全置換術(THA)への切り替え時

治療の第一選択は、体重管理や筋力トレーニング、鎮痛剤による保存療法です。しかし、これらはあくまで「痛みの緩和」や「進行の遅延」を目的としたものであり、すり減った軟骨を元に戻すことはできません。薬を飲んでも夜間に痛みで目が覚める、あるいは数十分の歩行もままならず、買い物や家事といった最低限の日常動作に著しい制限が生じている場合は、保存療法の限界と言えます。

この段階で検討されるのが人工股関節全置換術(THA)であり、失われた関節機能を再構築することで、再び痛みなく歩ける身体を取り戻します。

人工股関節全置換術(THA)の仕組みと手術の目的

人工股関節全置換術(THA:Total Hip Arthroplasty)は、損傷した股関節のパーツをすべて人工物に置き換える手術です。単に痛みを取るだけでなく、関節の動きを滑らかにし、病気によって生じた左右の脚の長さの差(脚長差)を補正することも重要な目的となります。THAがどのようにして股関節の機能を再建するのか、その仕組みを詳しく見ていきましょう。

インプラントの構成と生体適合素材の役割

THAで使用されるインプラントは、骨盤側の受け皿となる「ソケット」、その中にはまる「ライナー」、大腿骨側に挿入する「ステム」、そして先端の「ボール(骨頭)」の4つのパーツで構成されています。素材には、人体への馴染みが良いチタン合金やコバルトクロム合金、摩耗に極めて強いセラミックスや高度架橋ポリエチレンが使用されます。

これらを骨にしっかりと固定することで、本来の股関節と同じような滑らかな回転運動を再現します。素材の進化により、現在のインプラントは20年から30年以上の長期耐用が期待できるようになっています。

痛みの除去と脚の長さ(脚長差)の補正効果

変形性股関節症が進行すると、骨が潰れたり関節の隙間がなくなったりすることで、患側の脚が短くなる「脚長差」が生じることがあります。これが原因で歩き方が不自然になり、腰痛を引き起こす患者様も少なくありません。

THA手術では、インプラントの設置角度や長さを精密に調整することで、この脚長差を可能な限り補正します。手術によって痛みの原因となる骨同士の接触がなくなり、さらに脚の長さが揃うことで、術後は驚くほどスムーズでバランスの良い歩行が可能になります。これは、全身の骨格バランスを整える上でも極めて大きなメリットです。

筋肉を温存する最新の低侵襲手術(MIS)とアプローチ法

かつての股関節手術は大きな切開を必要とし、筋肉へのダメージも避けられませんでしたが、現在は「低侵襲手術(MIS)」が普及しています。これは単に皮膚の傷を小さくするだけではなく、内部の筋肉や腱をできるだけ切らずに温存する技術です。これにより、術後の早期回復と合併症リスクの低減が実現しています。

前方アプローチ(DAA)等による早期回復のメリット

現在注目されている手法の一つに「仰臥位前方アプローチ(DAA)」があります。これは、股関節の前面にある筋肉の隙間を通って関節に到達する方法です。筋肉を切り離す必要がないため、手術直後から筋力が維持されており、術後の痛みが非常に少ないのが特徴です。

また、後方からのアプローチに比べて脱臼のリスクが低いというデータもあり、早期の歩行訓練開始と短期間での退院を可能にしています。患者様にとっては、手術したことを忘れるほど自然な感覚で早期に日常生活へ復帰できる点が最大の利点です。

神経や筋肉を傷つけないための高度な技術

MISを安全に行うためには、限られた術野の中で精密に操作する高度な技術と経験が必要です。当院では、血管や神経の走行を十分に考慮し、重要な組織を愛護的に扱うことで、術後のしびれや筋力低下を防いでいます。

また、筋肉を温存し、かつ正確な設置を行うことで、長期的にも安定した人工股関節を提供し、患者様の「一生歩ける喜び」を技術面から支えています。

術後の生活とリハビリ:脱臼を防ぎ安全に過ごすコツ

手術後のリハビリテーションは、新しい関節を自分の身体の一部として馴染ませるための大切なプロセスです。特に股関節においては、人工関節特有の「脱臼」という合併症を予防しながら、いかに効率よく筋力を回復させるかがポイントとなります。安心して術後を過ごすための注意点とステップを解説します。

禁忌肢位の理解と日常生活での動作改善

人工股関節には、特定の方向に脚を強くひねったり曲げたりすると外れてしまう「脱臼」のリスクがわずかにあります。これを防ぐために、術後は「禁忌肢位(きんきしい)」と呼ばれる避けるべき動きを学びます。

例えば、脚を深く組む動作や、内股でのしゃがみ込み、横座りなどは注意が必要です。ただし、近年の手術手技(筋肉温存術式)の向上により、脱臼のリスクは激減しており、以前ほど過度な制限を必要としないケースも増えています。

リハビリを通じて、自分の関節の特性に合った「安全な動作」を身につけることが、長期間安心して過ごすための秘訣です。

早期離床を目指したリハビリテーションのステップ

現代のリハビリは「早期離床・早期歩行」が標準です。手術の翌日にはベッドから立ち上がり、歩行器を用いて歩く練習を開始します。早く動かすことで、筋力の低下を防ぐだけでなく、術後の重大な合併症である血栓症を予防する効果もあります。

理学療法士の指導のもと、筋力トレーニングと並行して、階段の昇り降りや靴下の着脱、床の物の拾い方といった実生活に即した動作訓練を行います。入院中の2〜3週間で、杖を使って一人で安全に歩けるレベルまで回復し、自信を持って自宅へ帰れるようサポート体制を整えています。

股関節の健康を取り戻した後のQOLと将来の見通し

人工股関節手術を受けた後の人生は、これまでとは一変して活動的なものになります。痛みのない生活は、身体だけでなく心にも余裕をもたらし、社会との繋がりを再び強めてくれます。手術をゴールと考えるのではなく、その後に広がる「新しい日常」と、それを守り抜くためのメンテナンスについて整理しましょう。

旅行やスポーツへの復帰:活動範囲の劇的な拡大

THAを受けた多くの患者様が、術後数ヶ月で旅行や趣味の活動を再開されています。ウォーキングやハイキング、ゴルフ、水泳、社交ダンスといった適度な運動は、関節の安定性を高めるためにもむしろ推奨されます。

痛みを気にせず自分の足でどこへでも行けるようになることで、精神的な若々しさが蘇り、QOL(生活の質)は劇的に向上します。以前は諦めていた活動に再挑戦できるようになることは、人工関節手術が提供する最も大きな無形の財産と言えます。

術後の長期的なメンテナンスと一生涯のサポート

人工股関節を一生涯持たせるためには、定期的なメンテナンスが不可欠です。インプラントの素材は進化していますが、長年の使用による摩耗や、自覚症状のない「緩み」が起きる可能性は否定できません。そのため、年に1回程度の定期検診を欠かさず受け、レントゲンで状態を確認し続けることが重要です。

早期に微小な変化を見つければ、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。私たちは手術をして終わりではなく、患者様が10年、20年、30年と健やかに歩み続けられるよう、生涯にわたるパートナーとしてサポートし続けます。

まとめ

本記事では、変形性股関節症の病態から、人工股関節全置換術(THA)の仕組み、最新の術式、そして術後の生活までを解説しました。股関節の激しい痛みは、人生の活動範囲を狭めてしまう大きな壁となりますが、現代のTHA手術は、その壁を取り除き「自分らしい生活」を取り戻すための非常に安全で確実な手段です。

冒頭お伝えした階段や日常動作の不安は、適切な治療によって解消できます。一人で悩まず、まずは専門医にご相談ください。あなたのこれからの人生が、痛みのない軽やかな歩みと共に輝き続けることを願っています。

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